2025年10月19日、フランス・パリのルーヴル美術館で、展示中だった王室の宝飾品が盗まれるという衝撃的な事件が起きました。
大胆にも日中に館内へ侵入した4人組とみられる窃盗団が、19世紀フランス王室ゆかりのティアラやネックレスなどを持ち去り、その被害額はおよそ8800万ユーロ(約150億7000万円)と報じられています。
事件から6日後、2人が逮捕されましたが、残る犯人と宝飾品の行方は依然として捜査中です。
世界有数の美術館として知られるルーヴルですが、その長い歴史の中では、今回が初めての盗難事件というわけではありません。
実は、ルーヴルはたびたび盗難被害にあってきたのです。
革命の混乱に消えた王室の宝(18世紀末)
ルーヴル美術館は、もともとフランス王室の居城として建てられた「ルーヴル宮殿」です。
ルイ14世がヴェルサイユ宮殿を建設したことにより、主な役割は古代彫刻などの王室コレクションの収蔵、展示場所となっていました。
1789年のフランス革命によって王政が崩壊すると、王室のコレクションは国家の所有となり、1793年に一般公開が始まりました。
しかし、この革命期の混乱の中で多くの美術品や宝飾品が紛失・盗難に遭ったとされています。
当時はまだ警備体制も整っておらず、「革命の名のもとに奪われた」「行方がわからなくなった」作品も少なくありませんでした。
これが、ルーヴル美術館が抱える“盗難の原点”だったのかもしれません。
世界を震撼させた「モナ・リザ」盗難事件(1911年)
1911年8月21日、ルーヴル史上最も有名な盗難事件が起こります。
イタリア人作業員ヴィンチェンツォ・ペルージャが、白衣姿で館内に潜入し、名画『モナ・リザ』を壁から外して持ち去ったのです。
国を代表する絵画が盗まれたことで、世論は「国家の恥」とまで叫びました。
そして驚くべきことに、当時まだ若手画家だったパブロ・ピカソとその友人の詩人ギョーム・アポリネールが容疑者として逮捕・尋問されるという事態になります。
実は2人は以前、ルーヴルから盗まれた小さな彫刻(イベリア美術の像)を購入していたことがあり、それが疑いを呼んだのです。
最終的に無実と判明し、真犯人ペルージャが1913年にイタリア・フィレンツェで逮捕されたことで事件は解決しました。
シャルル10世の戴冠宝剣が消えた事件(1976年)
1976年12月、3人組の覆面強盗がルーヴルへ侵入。
展示されていた『シャルル10世の戴冠式ために制作された儀式用の宝剣』を盗み出す事件が発生しました。
この剣は、ダイヤモンドや金装飾が施されたフランス王室の象徴的遺物で、現在も行方不明のままです。
「モナ・リザ事件」以降、厳重な防犯が敷かれていたにもかかわらず、ルーヴルは再び狙われたことになります。
ルネサンス時代の甲冑盗難事件(1983年)
1983年には、16世紀ミラノ製の金銀象嵌の甲冑セット(胸甲と兜)が盗まれました。
この甲冑はロスチャイルド家から寄贈されたもので、当時の評価額は数億円相当とされています。
その後長らく行方不明でしたが、約38年後の2021年、フランス南西部で偶然発見され、ルーヴルへ返還されました。

連続盗難事件(1990年台)
1990年7月、窃盗犯がピエール・オーギュスト・ルノワール作の絵画を盗み出したことをきっかけに所蔵品の目録が作成され、それ以前に古代ローマの宝飾品12点も盗まれていたことが明らかになりました。
1998年5月には展示室の壁からジャン=バティスト・カミーユ・コローの『セーヴルの道』が額縁ごと外され、姿を消しました。
職員が気づいた時にはすでに遅く、現在も絵画は行方不明です。
この事件をきっかけに、ルーヴルは展示室内の監視カメラと人員配置を大幅に強化しました。
ナポレオンにも所縁がある宝石を奪った2025年事件
そして2025年10月。
ルーヴルの「アポローン・ギャラリー」で展示されていた王室宝飾品8点以上が盗まれる事件が発生しました。
ティアラ、ネックレス、ブローチなど、いずれも19世紀フランス王室・皇室に由来する歴史的価値の高い品々でした。
犯人グループは建設作業員を装って侵入し、高所作業車を使って外部へ逃走したとみられています。
フランス検察は「世紀の盗難」として捜査を進め、インターポール(国際刑事警察機構)も盗難品データベースに登録しました。

まとめ
| 年 | 事件名・概要 | 被害品 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1790年代 | 革命期の混乱で作品紛失 | 王室宝飾・絵画 | 多数行方不明 |
| 1911年 | モナ・リザ盗難事件 | モナ・リザ | 2年後に発見 |
| 1976年 | 王の剣盗難事件 | シャルル10世の宝剣 | 未発見 |
| 1983年 | ルネサンス甲冑盗難 | 胸甲・兜 | 2021年返還 |
| 1998年 | 小型絵画盗難 | 『セーヴルの道』 | 未発見 |
| 2025年 | 王室宝飾品盗難 | ティアラなど8点以上 | 一部容疑者逮捕 |
ルーヴル美術館は「世界最大級の美術館」であると同時に、「世界で最も狙われる美術館」でもあります。
展示されているのは、王家や皇帝、歴史を彩った人々の宝物。
その価値は金額では測れず、「人類の歩み」そのものといえるでしょう。
警備技術が進歩しても、人の隙や情報漏洩、展示替えの一瞬を突く手口は後を絶ちません。
ルーヴルの歴史は、芸術と同じくらい「盗難との闘いの歴史」でもあるのです。




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