昔の人はどうやって「買い占め」「転売」を取り締まった?──江戸時代の知恵と怒り

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現代でも話題になる「買い占め」や「転売」。

江戸時代の人々も同じような問題に直面し、庶民の怒りが大きな事件につながることもありました。

この記事では、江戸の物価対策とともに、「大塩平八郎の乱」「天保の改革」といった歴史的出来事を通じて、昔の人々の対処法とその顛末を紹介します。


江戸時代にもあった「買い占め」と「転売」

江戸時代、日本の経済は主に米を中心に回っていました。

米は食料でありながら通貨のような役割も果たしていたため、米の価格が変動することは人々の生活に直結していたのです。

商人の中には、米や必需品を大量に買い占めて、値段をつり上げて売る者も出てきました。これがまさに、現代でいう「買い占め」や「転売」です。


幕府の対策:禁令と高札での「見せしめ」

幕府はしばしば、「米や薪炭などの生活必需品を買い占めて値を吊り上げる行為」を「町触(まちぶれ。庶民への法令伝達)」や「高札(こうさつ。掲示板のような掲示物)」で禁じており、違反すれば罰金や財産没収の対象となりました。

特に天明・寛政・天保などの飢饉・物価高騰期に以下のような命令を出しています。

『武家諸法度』『町触』『御触書寛保集成』など
  • 「諸色高直之儀、堅可停止事」(諸物価の値上げを厳禁する)
  • 「薪炭・米穀之買占、以禁止可被致候事」
  • 「市中之商人、勝手之買留(買い占め)、並ニ売惜(売り惜しみ)無用ニ可致候事」

これらは町奉行所の「町触」や「高札」として市中に掲示されたもので、現代風に言えば「買い占め・転売はやめろ」という命令です。


民間の工夫:義倉と五人組制度

自治体レベルでも買い占め対策は行われていました。

  • 義倉(ぎそう)社倉(しゃそう):米や穀物を備蓄しておき、飢饉時や価格高騰時に安く放出。
  • 五人組制度:住民同士で相互監視。誰かが悪さをすれば連帯責任が課せられる。

つまり「みんなで監視し合ってモラルを守る」仕組みがあったのです。


大塩平八郎の乱──腐敗した体制と商人の買い占めへの怒り

1837年、当時の大阪で起こった「大塩平八郎の乱」は、まさに買い占めへの怒りが引き金でした。

  • 大塩平八郎は元・大阪町奉行所の役人。
  • 飢饉で人々が苦しむ中、富商たちが米を買い占めて高値で売っていた。
  • 行政もそれを黙認していたため、「民を救わねば」と立ち上がり、蜂起。

結果として乱は失敗しますが、その背景には「市場のモラル崩壊」と「お上の無策」がありました。


天保の改革──再び締め付けるも、長続きせず

大塩の乱から2年後、老中・水野忠邦によって始まったのが天保の改革(1841〜1843)です。
これは、経済的混乱やモラル低下を立て直すための大規模な政策でした。

改革の柱の一つが「物価統制」や「奢侈禁止(しゃしきんし)」でした。

  • 江戸市中の米市場を取り締まり、買い占め商人を処罰
  • 米の公定価格を定め、値上げを禁止
  • 商人組合にも自律的な監視と報告を義務付け

しかし、厳しすぎる規制は経済活動を停滞させ、結局この改革も長続きはしませんでした。

奢侈禁止は贅沢品の使用や消費を禁止し、倹約を促す法令や政策のこと


最終的にどう乗り切ったのか?

江戸幕府は、最終的に以下のようなバランス型の対策に落ち着いていきました。

市場を完全に縛るのではなく、備蓄と放出で価格を抑える

義倉・社倉といった地方・民間レベルでの備蓄制度を活用し、米価が上がりすぎたときに放出して価格を下げる。買い占めを取り締まりつつも、市場原理を完全には否定しませんでした。

幕府が価格を決めすぎることの限界を悟る

天保の改革の失敗から、幕府は「過剰な統制は逆効果」と学びました。結果、徐々に市場に任せる方向へ移行。

地域や民間の工夫に依存する流れへ

備蓄米、地域による分配、相互監視。特に農村や町人社会の自律的な仕組みが、社会の安定に大きな役割を果たしました。


昔の知恵に学ぶ「バランス感覚」

対策内容
禁止・処罰高札・禁令・闕所などで買い占めをけん制
自助・備蓄義倉・社倉での放出と価格安定策
政府の失敗天保の改革で統制が行きすぎて経済が停滞
最終対応統制と市場のバランス、民間の工夫との共存

まとめ:結局のところモラルと信頼関係の問題

現代でも、物価の乱高下や買い占め騒動はたびたび発生します。

モラルが崩れたときには、強い規制が必要になる場面もあります。
一方で、状況が落ち着けば締め付けを緩める判断も欠かせません。
しかし、こうしたバランスが取れず、対応が後手に回ったり、緩和の約束が守られなかったりすることへの疑心で、混乱が長引いているのではないでしょうか。

江戸時代の人々のように、「法だけでなく道徳を重んじる」「中央だけでなく地域の知恵を活かす」といった視点を持つことで、今の私たちにも混乱を防ぐヒントが見えてくるかもしれません。


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