メキシコの首都近郊で進められた空港建設工事中に、思いがけない歴史的大発見がありました。
工事現場から次々と姿を現したのは、数万年前に生きていたマンモスやその他の大型動物の化石です。
この記事では、この驚くべき発掘の経緯や新たに判明したマンモスの進化の謎、そして現代に残された遺産について紹介します。
空港建設から始まった「化石ラッシュ」
2017年のメキシコ大統領選挙キャンペーン中、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏は、建設中だったメキシコ・シティ新国際空港(NAICM)の計画をコスト超過と汚職を理由に中止することを公約に掲げました。
大統領就任後、彼はその公約を実行に移し、NAICM計画を撤回しました。そして、その代替案として、首都の北50キロに位置するサンタ・ルシアの軍事基地にフェリペ・アンヘレス空港を建設する方針を打ち出しました。この決定は、政治的・経済的な論争を引き起こしましたが、軍主導で建設が進められることになりました。
2019年に工事が始まると、掘削の途中で突如として巨大な骨が次々と出現。最初のマンモスが姿を現したのは同年11月のことでした。その後、発掘現場は毎日のように新たな化石が見つかる“化石ラッシュ”と化し、考古学者や軍の作業員が総動員される事態となりました。
史上最大級の規模 ― 数万点に及ぶ化石
2022年までに集められたのは、なんと5万点以上の更新世の化石。
- マンモス:約500体分
- ラクダ:約200体
- 馬:約70体
- 巨大ナマケモノ:約15体
- さらにオオカミ、サーベルタイガー、バイソン、アルマジロ、鳥類、淡水の貝類、そして人骨1体
これらは北米の有名な「ラ・ブレア・タールピット」に匹敵するか、あるいはそれを上回る規模とされています。
南のマンモス ― 新たな系統が判明
一般にマンモスといえば、シベリアやアラスカのツンドラ地帯を歩く毛むくじゃらの姿を想像します。しかし、今回見つかったのはコロンビアマンモスと呼ばれる種類で、中米やコスタリカにまで分布していた大型種でした。
メキシコの研究チームは歯のDNAを解析し、熱帯地域のマンモスから初めて遺伝情報を取得することに成功。解析の結果、これらは北米のコロンビアマンモスとは異なる独自の系統に属していたことが分かりました。研究者の中には「コロンビアマンモスではなく、新たに“メキシコマンモス”と呼ぶべきではないか」と提案する声も出ています。
多様な生態と絶滅の謎
放射性炭素年代測定により、これらのマンモスは1万6,000〜1万1,000年前に生きていたことが判明しました。
北米ではこの時期にマンモスが急激に減少していたのに対し、メキシコの群れは比較的安定していた可能性があるといいます。その背景には、草だけでなく木の葉や低木も食べる「食性の柔軟さ」があったと考えられています。
しかし、低い個体数や近親交配による遺伝的多様性の欠如が重なり、最終的には1万年以上前に姿を消しました。絶滅の直接の原因は、気候変動や人類による狩猟、あるいはその両方と考えられています。
博物館として残された遺産
建設が進む中で軍は化石を保護し、保存施設や博物館を設立しました。2022年には「キナメツィン博物館」がオープンし、雌のマンモス「ノチパ」の全身骨格が展示されています。
現在も数万点の化石が未研究のまま保管されており、今後さらにDNA研究や古環境解析が進められる予定です。
まとめ
サンタ・ルシア空港建設の副産物として発見された、史上最大級のマンモス化石群。
この発見はマンモス進化史の空白を埋めるだけでなく、メキシコにおける古生物学研究の発展にもつながっています。現代の空港建設が、数万年前の巨大生物の物語を私たちに届けることになったのです。
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