「8時59分60秒」という特別な「うるう秒」が近い将来なくなる――そんな話を耳にしたことはありませんか?
実際には、うるう秒による1秒の修正を廃止し、代わりに大規模な時間調整を将来的に行うことで、ズレを大きく許容する方向に変わります。
今回は、うるう秒の仕組みと2015年に話題となった事例を振り返りながら、今後の時間調整のあり方をわかりやすく解説します。
そもそも「うるう秒」とは?
うるう秒とは、地球の自転と原子時計との時間差を調整するために挿入される1秒です。
- 世界標準時(UTC)はセシウム原子の振動を基準とした原子時計で刻まれます。
- 一方、地球の自転は潮汐摩擦や地殻変動などの影響でわずかに不規則で、年々少しずつ遅れが生じます。
このため、原子時計と地球自転に基づく天文時刻(UT1)との差が0.9秒を超えると、調整のために1秒が追加されます。これが「うるう秒の挿入」です。
うるう秒は1972年の導入から2022年までに27回挿入されました。日本では時差のため、UTC+9時間の「8時59分60秒」を挿入しています。
2015年の挿入で注目が集まった
2015年7月1日の挿入は、日本では18年ぶりの平日朝に行われ、通勤・通学の時間帯と重なりました。テレビやネットで大きく報じられ、Twitterでは「#うるう秒」がトレンド入りしました。
しかし同時に、一部の動画配信サービスやSNSで短時間の障害・遅延が発生し、金融市場のシステムにも影響が出ました。
こうしたトラブルを避けるため、GoogleやAmazonは「うるう秒スミア」という手法を採用し、1秒を数時間に分けて徐々に調整しています。
実際は将来への先送り
2022年の国際度量衡総会(CGPM)では、2035年までに「うるう秒の挿入停止」が決定しました。
事実上のうるう秒廃止ですが、厳密には2035年以降はうるう秒の挿入を停止し、ズレの許容範囲を少なくとも1分まで拡大する方針となりました
調整が無ければ、UTCとUT1のズレは徐々に拡大します。予測では100年で約1分程度ですが、日常生活にはほとんど影響しません。
将来的には、数十年〜数百年ごとに「うるう分」や「うるう時間」といった大規模調整を行い、長期的な整合性を保つ計画です。
ただし、調整間隔が長くなりすぎると「運用者が時間調整の挿入を経験していない」「プログラム修正の反映漏れ」など、システムへの影響拡大が懸念されます。
まとめ
うるう秒は、地球自転の不規則さを補う重要な仕組みでしたが、2015年の事例のようにシステム障害や対策コスト増が課題でした。
国際的にはうるう秒の廃止を決定し、時間の連続性を優先する方向に舵を切りました。これにより、当面はズレを許容しますが、将来的に大規模な時間調整が必要になります。
それは将来の世代へズレの調整を先送りすることでもあり、遠い未来の技術者は忘れた頃に訪れるシステムの大規模修正と混乱に向き合うことになるでしょう。
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