2000年代半ば、インターネット上で爆発的な注目を集めた仮想空間サービスがありました。それが「セカンドライフ(Second Life)」です。
当時のメディアは連日のようにこの3D仮想世界について報じ、多くの企業が新たなビジネスチャンスを求めて参入しました。あれから約20年が経った今、改めてセカンドライフの軌跡を振り返ってみたいと思います。
セカンドライフとは何だったのか
セカンドライフは、2003年6月にアメリカのリンデン・ラボ社(Linden Lab)によってサービスが開始された3D仮想空間です。ユーザーは自分の分身であるアバターを作成し、仮想世界の中で他のユーザーと交流したり、建物やファッションアイテムを制作・販売したりすることができました。
最も革新的だったのは、仮想通貨「リンデンドル(L$)」と現実の法定通貨との交換システムでした。これにより、仮想空間内での経済活動が現実の収入に直結し、セカンドライフ内でビジネスを展開して生計を立てる人々まで現れました。まさに「メタバースの先駆け」と呼ぶにふさわしい画期的なサービスだったのです。
空前のブームとその背景
2006年から2007年にかけて、セカンドライフは世界的な大ブームを巻き起こしました。日本のメディアも「インターネットの未来形」として連日報道し、大手企業が続々と仮想空間内に店舗やイベントスペースを構築しました。教育機関もセカンドライフを活用した授業やセミナーを開催し、まさに社会現象となりました。
このブームの背景には、インターネットがより身近になり、3D技術が一般ユーザーでも楽しめるレベルまで向上したことがありました。また、Web 2.0という概念が浸透し、ユーザー自身がコンテンツを創造する時代の到来を象徴する存在として注目されたのです。
なぜブームは終わったのか
しかし、爆発的な注目を集めたセカンドライフでしたが、ブームは意外にも短期間で収束してしまいました。その理由はいくつか考えられます。
まず、操作の複雑さが大きな障壁となりました。3D空間でのアバター操作や建物の建築は、一般ユーザーにとって決して直感的とは言えず、操作の難しさから多くの人が途中で離脱してしまいました。また、快適に楽しむためには当時としては高いPCスペックが必要で技術的なハードルも存在しました。
さらに、ユーザー生成コンテンツに依存するシステムゆえに、魅力的なコンテンツの不足や質のばらつきも問題となりました。メディアによる過度な期待感と、実際の体験とのギャップも、新規ユーザーの定着を阻む要因の一つでした。
セカンドライフは終わっていなかった
ブームが去った後、多くの人がセカンドライフは終わったサービスだと思っていたかもしれません。しかし実際には、サービスは一度も停止することなく現在まで継続されています。
現在の同時接続ユーザーは3〜5万人前後で推移し、月間60万人のアクティブユーザーを抱えています。1日のリンデンドル取引額は日本円にして2000万円前後にのぼり、活発な経済活動が続いています。
ブーム後のセカンドライフは、一時的な流行から解放され、本当にこのプラットフォームを必要とする人々に支えられて着実に進化を遂げました。グラフィックの向上や操作性の改善、新機能の追加など、技術的なアップデートも継続的に行われています。
現在のセカンドライフコミュニティ
今のセカンドライフには、アート、教育、特定の趣味を持つグループ、ロールプレイングなど、明確な目的を持ったコミュニティが定着しています。日本人ユーザーも依然として存在し、独自のコミュニティを形成して活動を続けています。
17年以上にわたって同じ仮想世界で生活を続けている人々がいるというのは、まさに驚異的なことです。彼らにとってセカンドライフは単なるゲームやエンターテインメントではなく、もう一つの生活空間なのです。
メタバース時代における再評価
近年のメタバースブームの到来により、セカンドライフは「早すぎたメタバース」として再評価されることが増えました。現代のメタバース開発における課題や成功要因を探る上で、セカンドライフの20年以上にわたる経験は貴重な参考資料となっています。
2023年にはスマートフォン・タブレット向けの新アプリ「Second Life Mobile」の開発も発表され、新たな展開への期待も高まっています。技術的な制約から一般化できなかった当時の理想が、現在の技術力によって実現される可能性もあります。
リバイバルの可能性は?
再び当時のような爆発的ブームを起こすのは難しいかもしれませんが、メタバース技術の普及とともに、より多くの人がセカンドライフの価値を再発見する可能性は十分にあります。
VRヘッドセットの普及、5G通信の高速化、クラウドコンピューティングの進歩など、現在の技術環境はセカンドライフが直面していた技術的課題の多くを解決できる水準に達しています。また、リモートワークの定着により、バーチャル空間でのコミュニケーションへの抵抗感も大幅に減少しました。
まとめ
セカンドライフは確かに一時的なブームを経験しましたが、それ以上に重要なのは20年以上にわたって仮想空間コミュニティを維持し続けていることです。流行に左右されることなく、コアなユーザーに愛され続けているその姿は、真に価値あるサービスの在り方を示しているのかもしれません。
現在進行中のメタバース開発において、セカンドライフは貴重な教訓を提供してくれています。技術的な革新だけでなく、持続可能なコミュニティの構築こそが、仮想空間サービス成功の鍵となるのでしょう。
コメント