2026年1月初旬、ベネズエラをめぐる一連の強硬な動きとともに、トランプ大統領が発信した「ドンロー主義(ドナルド・トランプとモンロー主義を掛け合わせた造語)」という言葉が注目を集めています。
かつての「モンロー主義」を現代的に再解釈したこの外交方針は、世界秩序、そして日本の安全保障にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
ドンロー主義とは、21世紀の「縄張り」外交
ドンロー主義とは、19世紀に提唱された「モンロー主義」を、ドナルド・トランプ流に再定義した外交構想を指します。
その中核にあるのは、「西半球(南北アメリカ大陸)における米国の覇権の再確立」と「域外勢力、特に中国・ロシアの影響力排除」です。
いわゆる「世界の警察」としての役割を縮小する一方、自国の“庭”と位置付けるアメリカ大陸において、資源・安全保障・経済の各分野で主導権を握ろうとする戦略だと整理できます。
モンロー主義の歴史とドンロー主義の狙い
モンロー主義とは何か?
- 1823年に第5代ジェームズ・モンロー大統領が提唱。欧州列強によるアメリカ大陸への再植民地化を防ぐため、「相互不干渉」を原則としました。
- 「欧州はアメリカ大陸に干渉しない。米国も欧州の紛争には介入しない」という、強い孤立主義的性格を持っていました。
- その後、米国の影響力拡大に伴い、「ローズヴェルトの系論(コロラリー)」による中南米への積極介入、いわゆる「こん棒外交」へと発展します。
ドンロー主義が目指しているもの
ドンロー主義は、防衛的な孤立主義ではなく、以下の3点を柱とする攻撃的な覇権構想と位置付けられます。
- 資源の囲い込み: ベネズエラの原油や中南米の希少金属資源を、米国の影響下に置くこと。
- 物理的な「米州化」: グリーンランド買収構想や、メキシコ、パナマ運河への強い関与を通じ、地政学的影響圏を固定化すること。
- 中国の排除: 「一帯一路」による中南米への中国資本の浸透を、安全保障上の脅威として遮断すること。
トランプ・コロラリーの衝撃
ドンロー主義を支える理論武装が、2025年末の国家安全保障戦略(NSS)で明文化された「トランプ・コロラリー(トランプの系論)」です。
- 西半球の絶対優先: 米国の安全保障と繁栄の条件として、西半球(アメリカ大陸)における米国の卓越性を「絶対条件」と定義。
- 条件付き不干渉: 他国の内政には干渉しないと標榜する一方で、西半球に敵対的な外部勢力(中国・ロシア等)の影響がある場合は、軍事的介入も辞さない。
- 麻薬テロとの「戦争」: 麻薬カルテルを単なる犯罪組織ではなく「非国家テロ組織」と認定し、国防上の正当なターゲットと見なす。
トランプ大統領はこの理論に基づき、すでにいくつかの衝撃的なアクションを具体化させています。
1. メキシコ:実質的な領土管理と「アメリカ湾」
トランプ大統領は、メキシコ政府が麻薬カルテルを制御できていないとして、「(メキシコを)補助金で支えるくらいなら、米国の州にすべきだ」との過激な発言を繰り返しています。
さらに、就任早々にメキシコ湾の一部を連邦政府内で「アメリカ湾(Gulf of America)」と呼称変更する大統領令に署名しました。
これは単なる名前の変更ではなく、湾内の資源と治安維持に対する米国の排他的な関与を宣言する象徴的な動きだと受け止められています。
2. グリーンランド:「買収」から「安全保障上の必要性」へ
1期目では「不動産取引」として嘲笑されたグリーンランド買収案ですが、現在は「国家安全保障上の不可欠な要件」として再定義されています。
北極圏におけるロシア・中国の艦隊展開を阻止するため、トランプ政権はデンマークに対し、売却あるいは米軍による「恒久的な管理権」の譲渡を強く迫っています。
ホワイトハウス内では、グリーンランドを米国の地図に「SOON(間もなく)」と書き込んだ画像が拡散されるなど、ベネズエラの次なる標的として緊張が高まっています。
3. ベネズエラ:電撃的な大統領拘束と「石油運営」
2026年1月3日、トランプ政権は「作戦名:アブソリュート・リゾルブ(絶対的決意)」を発動。米特殊部隊が首都カラカスを急襲し、ニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拘束して米国へ移送するという、前代未聞の事態となりました。
- 麻薬テロの大義名分: マドゥロ氏を「麻薬カルテルのボス」、軍事介入を「法執行(逮捕状の執行)」として正当化しました。
- 石油利権の直接管理: 攻撃直後の会見でトランプ氏は「世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラを、米国が安全に運営する」と宣言。米国の石油メジャーを直接投入する方針を明らかにしました。
- 他国への警告: ベネズエラを支援してきた中国・ロシアに対し、「西半球から出て行け」という強烈なメッセージを突きつけました。
日本への影響は?
ドンロー主義が進展した場合、日本にとって最大の懸念は「米国の戦略的関心がアジアから相対的に後退する」可能性です。
- 自力国防への圧力: 米国の関与縮小により、日本には防衛力強化や防衛負担増を求める圧力が一層強まる可能性があります。
- 大国間取引のリスク: 米国が西半球、中国が東アジアという勢力圏分割を模索する中で、日本が交渉材料として扱われる懸念があります。
- 経済的圧力: 安全保障とは別軸で、対米輸出に対する高関税などの要求が突き付けられる可能性も否定できません。
まとめ
ドンロー主義は、単なるトランプ政権特有の強硬レトリックではなく、「Make America Great Again」「アメリカ・ファースト」というスローガンに象徴される思想を、外交・安全保障の分野にまで適用しようとする試みと捉えるべきでしょう。グローバルな秩序維持から距離を取り、自国の影響圏を明確に線引きする動きは、米国の世界戦略そのものの再編を意味します。
今後の焦点は、米国が実際にどの地域で行動を起こすのか、そしてその見返りとして何を交渉材料にするのかという点に集約されます。中南米や北極圏での具体的な関与強化、米中首脳会談における勢力圏を巡る取引、さらには日本自身が防衛と産業の両面でどこまで自立できるのかが課題となるでしょう。
ドンロー主義は、「アメリカが守ってくれる時代」の終わりではなく、「何を守り、何を切り捨てるかを露骨に選別する時代」が訪れる兆しではないでしょうか。その変化を過小評価せず、日本としてどの立場に立ち、どの選択肢を選ぶのかが、これから一層問われることになります。


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