【セレブリティ・ナンバー・シックス】正体不明の人物は誰?4年越しで解明されたネット都市伝説の真相

2020年にReddit(アメリカの掲示板型ソーシャルニュースサイト)で突如話題となった、ある“謎の人物”を巡る騒動。それが「セレブリティ・ナンバー・シックス(Celebrity Number Six)」と呼ばれるネットミステリーです。

カーテンに描かれた有名人たちの中に、たった1人だけ誰なのか”わからない”人物が混じっていた──そんな些細な謎が、4年の歳月をかけて世界中のネットユーザーを巻き込む壮大な推理劇へと発展しました。

Redditの国内利用が限定的なため、日本ではあまり話題になりませんでしたが、海外では大きな話題となりました。

この記事では、その始まりから解決に至るまでの騒動を紹介していきます。


発端はカーテンに写るの“謎の人物?”

2020年1月、フィンランドのRedditユーザー「TontsaH」がr/TipOfMyTongueというサブレディット(掲示板)に1枚の写真を投稿しました。それは祖母の家にあったカーテン生地の写真で、8人のセレブリティの顔がデザインされたもので、プリントされた人物の特定を依頼する投稿でした。投稿者と多くのユーザーはすぐに7人を特定しましたが、6番目の人物だけがどうしても特定できませんでした。

中性的で整った顔立ちはプロのモデルのようでした。しかし、ネット上のどの画像にも一致するものが見つかりませんでした。

この人物は、“セレブリティ・ナンバー・シックス”と名付けられ、ネット上で正体不明の有名人となりました。


Reddit民による総力戦

この謎の人物の特定は、Reddit上で瞬く間に注目を集めました。専用のサブレディット「r/CelebrityNumberSix」が立ち上げられ、ユーザーたちがあらゆる手段で正体を探り始めました。

しかし、長髪オールバックの男性とも、輪郭のはっきりした凛々しい女性ともとれる中性的な容姿は、長年論争の的のままでした。ある時点で行われたアンケートでは、65%が「女性」、35%が「男性」と回答。性別すら定まらない状況は、特定の難航ぶりを物語っていました。

1.顔認識ソフトを駆使した検証

  • AI顔認識ツール「PimEyes」や「Google画像検索」を駆使し、わずかな特徴を手がかりに類似画像を探し続けました。

2.カーテン画像の加工を解析

  • 生地にプリントされた画像はコントラストや彩度が調整されており、元の写真が特定しにくくなっていました。
  • Reddit民はPhotoshopやAI画像復元ツールを使って「元の写真の雰囲気を復元」しようと試みます。

3.推理と情報共有

  • 服装や髪型から2000年代初期と推理。
  • 顔の特徴(頬骨の形、眉の太さ、視線の方向)をもとに「可能性がありそうなモデル」のリストを作成。
  • 海外モデルの名鑑やファッション誌アーカイブを手作業で確認したユーザーもいました。

4.世界中からの協力

  • スペイン、イタリア、ドイツなど各国のユーザーが「自国のモデルではないか?」と情報提供。
  • 一部のユーザーは、古いストックフォトの提供元に問い合わせを行うまでに至ります。

中には、ヨーロッパ各国のTV番組やカタログ、モデル事務所の古いWebサイトを手動でクロールするユーザーも現れました。あるユーザーは、“若き日のケイト・ボスワース”だと誤認し、一時騒然となる一幕もありました。

しかし、誤情報が飛び交う中でも、コミュニティの士気は衰えることなく、ネット上はまるで発掘作業の現場のようにあらゆる可能性が次々と検証されていきました。

しかし情報は乏しく、正体は数年にわたって不明のまま。やがてフェイクが横行し、コミュニティ内では対立も目立ちはじめます。「実在しない人物なのでは?」「AIで作った顔なのでは?」といった声すら上がるようになりました。


転機は4年後、突破口は人力と進化したAIの合わせ技

AIによる元となった写真の復元も試行されたが、突破口となったのは人力によるカラー加工でした。

2024年5月、ユーザー「StefanMorse」が自身の編集スキルでカラー加工した画像を再度PimEyesにアップロードしたところ、これまで候補に挙がってこなかったスペイン人女性の写真が複数ヒットしました。

彼女の名前はレティシア・サルダ(Leticia Sardá)
2006年前後に活動していたモデルで、現在は業界を離れていたためネット上には情報がほとんどありませんでした。

さらに別のユーザー「IndigoRoom」が写真の出典(2006年のスペインの雑誌「Woman」のTendencias特集に掲載)を調べあげ、撮影者に直接コンタクト。
「その写真は確かに自分が撮ったものだ」との証言に加え、オリジナル写真の提供を得ることに成功しました。

「フェイク画像」疑惑とReddit内の混乱ー今度はAIの進化が仇に

しかし、IndigoRoomが撮影者からの証言とともに投稿した画像には思わぬ反発が寄せられました。
「あまりにも綺麗すぎる」「不自然な質感だ」などの声が上がり、一部のユーザーがAIによって生成された画像(いわゆる“AIフェイク”)と疑いをかけ始めたのです。

この疑念は、近年のAI生成技術に対する社会的な懸念ともリンクしていました。2023年以降、SNSでは“フェイク美人”や“実在しないインフルエンサー”が話題になることが増えており、人々の間に「リアルな画像=実在とは限らない」という感覚が広まりつつありました。

コミュニティ内では、画像のExifデータや類似画像との照合などが行われ、「フェイクか否か」をめぐって激しい議論が巻き起こりました。

この混乱の最中でも、IndigoRoomは一貫して冷静に対応を続けました。撮影者が提供した別アングルの未公開写真や、雑誌レイアウト上での使用実績などを次々と提示し、確かな裏付けを積み重ねることで、多くのユーザーを納得させていきました。

そして最終的には、レティシア本人が『ニューヨーク・タイムズ』のインタビューに応じ、当時の写真とそれが使用されたカーテンの存在を確認し、自身が被写体であることを認めたことで長年にわたる謎はついに幕を下ろしました。


静かな生活から、世界の注目の的へ

すでにモデル業を2009年に引退し、スペイン・テネリフェ島で静かに暮らしていたレティシアは、この突然の注目に驚きつつも前向きに対応。

  • RedditでAMA(Ask Me Anything、Redditでの質疑応答イベント)に参加
  • 過去の写真をプリント販売開始
  • InstagramやTikTokでの発信を開始

彼女自身がこのネット文化の一部として再登場することになったのも、インターネットならではの展開といえるでしょう。


この出来事が教えてくれたこと

この「セレブリティ・ナンバー・シックス」の謎解き劇は、ネットの集合知とテクノロジーが合わさったときの圧倒的な力を示した象徴的な出来事でした。

  • ささいなきっかけでも、大勢の関心が集まれば巨大なムーブメントになり得る
  • 顔認識AIなどの技術は、趣味の範疇を超えた探偵活動を可能にした
  • 一見くだらないと思われた謎が、人々の連帯や創造性を引き出す原動力になりうる

小さな疑問から始まったこの騒動は、まさにインターネット時代ならではのミステリーと呼ぶにふさわしいものでした。

しかしその裏では、関係のない人を巻き込み、プライバシーを脅かすような迷惑行為や、憶測・誤情報の拡散、さらにはフェイク画像に対する疑念も渦巻いていました。
インターネットが生み出した集合知の「光」と「影」が、まさに浮き彫りになった出来事だったと言えるでしょう。


まとめ:次の“セレブリティ・ナンバー・シックス”は?

ネットの片隅で生まれた小さな疑問が、世界中を好奇心でつないだ——そんな物語でした。

この出来事が示すように、ネットユーザーの執念とテクノロジーが組み合わさると、私たちは予想もできない真実にたどり着けるのかもしれません。

現代は誰もがムーブメントの発信者になる可能性があり、同時に謎を特定する側になることもできます。もしかすると、次のミステリーはあなたの身の回りから生まれるかもしれません。

日本のネットでも、“電車男”や“バイトテロ特定”など、数々の“お祭り”が繰り広げられてきました。
もし、そんなネットのお祭りに出くわした時、あなたなら参加しますか?

参考リンク

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