【ケンブリッジ・アナリティカ事件】SNSと選挙を揺るがした情報スキャンダル

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2018年、世界を震撼させた「ケンブリッジ・アナリティカ事件」。
この事件は、私たちが日常的に使うSNSの「いいね!」や投稿履歴が、政治にまで利用されていたという衝撃の実態を暴き出しました。

個人データの悪用、選挙への介入、そして企業と国家による「見えない操作」。
この記事では、その仕組み、関係した出来事、そして事件の顛末までをわかりやすく解説します。


ケンブリッジ・アナリティカ事件とは?

  • 発覚:2018年3月、元従業員のクリストファー・ワイリーが英ガーディアン紙などに詳細をリーク
  • 関係者:ケンブリッジ・アナリティカ社(選挙コンサル企業)、Facebook、トランプ陣営など
  • 問題点:Facebookユーザーの個人情報約8700万人分が、本人の同意なしに政治目的で利用された

データはどのように流出したのか?

事件の発端は、Facebook上で公開されていた性格診断アプリ「thisisyourdigitallife」でした。

このアプリは、ケンブリッジ大学の研究者アレクサンダー・コーガンによって2014年に開発されたもので、学術研究を装っていた点も大きな問題とされました。

アプリは心理学調査を名目に、利用者本人だけでなく、その「友達」の情報までも収集していました。

利用者数は約27万人に過ぎませんでしたが、当時のFacebookの仕様を悪用することでその友人ネットワークを通じて、最終的に約8,700万人分もの個人データが収集される事態となりました。

当時、Facebookのプラットフォームポリシーでは取得データの第三者提供は禁止されていました。しかし、コーガンはこの規約に違反し収集したデータをケンブリッジ・アナリティカ社に提供していたのです。

Facebookはこの違反を2015年に把握していたにもかかわらず、事態を公表せず「データは削除された」との説明を信じて対応を終えていました。

主に収集されたFacebookデータ

アプリを通じてケンブリッジ・アナリティカ社が収集したデータには、以下のようなFacebookユーザーの個人情報が含まれていました。これは、本人の承諾の有無にかかわらず(特に“友達”のデータ)収集された点が大きな問題となりました。

本人のデータ(アプリ利用者本人)

本人に関して取得された主な情報内容
フルネーム氏名やニックネームなど
年齢・性別生年月日や性別
居住地・出身地現在地、故郷など
「いいね!」履歴どのページや投稿に「いいね!」したか
交友関係友達リスト、関係のある人物情報
投稿履歴投稿内容やその反応(コメント、シェアなど)※一部
写真アップロードされた写真やタグ付けされた写真(条件による)
プロフィール詳細職業、学歴、交際ステータスなど公開設定によるプロフィール情報
Facebook ID内部識別用のユーザーID
IPアドレス・利用端末情報接続元デバイスやおおまかな位置情報

友達のデータ(本人がアプリを使っていない場合でも)

当時のFacebook仕様では、アプリ利用者の「友達」の情報にもアクセスできました。そのため、アプリを使っていないユーザーのデータも大量に流出したとされています。

友達に関して取得された主な情報内容
フルネーム氏名やニックネームなど
公開プロフィール情報性別、交際状況、勤務先、学歴など
「いいね!」したページ情報音楽、映画、政治家などの嗜好
関係性やネットワーク情報誰と誰がつながっているか

友達のデータの収集は、当時(2014年頃)のFacebookが外部アプリに許可していた仕様によるものでした。
Facebookは2015年にこの仕様を廃止し、その後の事件発覚を受けてさらに制限を強化しました。

このデータで何が可能になったのか?

これらの情報をもとに、ケンブリッジ・アナリティカ社は以下のような「有権者の心理プロファイル」を構築しました。

  • OCEANモデル(外向性・協調性・誠実性・神経症傾向・開放性)に基づく性格分析
  • 政治傾向(リベラルか保守か)、不安を抱きやすいか、陰謀論に敏感かといった特性の分類
  • ターゲット広告の最適化(たとえば「恐怖を感じやすい人」には強い言葉を使った移民問題広告を表示)

政治キャンペーンへの“悪用”

ケンブリッジ・アナリティカ社は、この膨大な個人情報を分析し、有権者の性格や関心に応じた「マイクロターゲティング広告」を作成。これは次のようなキャンペーンに利用されました。

第1次トランプ大統領選(2016年)

  • 有権者を心理的に分類し、「恐怖」「怒り」など感情を刺激する政治広告を個別に配信
  • 移民問題や治安に対する恐怖を煽る広告、ヒラリー候補への不信感を強調するキャンペーン
  • 特定の人格をターゲットにして扇動を図る政治広告だったため、内容や偏向性の検証が困難

Brexit(イギリスEU離脱)

  • ケンブリッジ・アナリティカ社は、EU離脱を推進した「Leave.EU」陣営にも助言やデータ支援を行っていたとされる
  • 移民問題や国家主権をめぐる不安を煽るメッセージで離脱派の支持を強化

これらの戦略は、「見たい情報だけが届く」SNSの仕組みと、心理操作を組み合わせた強力な選挙戦術でした。


事件の顛末

企業側の動き

  • 2018年:事件の内部告発を受け、国際的な報道が一斉に展開
  • Facebook CEOのザッカーバーグ氏がアメリカ議会に呼ばれ、プライバシー対策の不備を謝罪
  • ケンブリッジ・アナリティカ社は信用を失い、2018年5月に破産・解散

Facebookへの制裁

  • 2019年、Facebookは米連邦取引委員会(FTC)から過去最大となる50億ドル(約5400億円)の制裁金を科される
  • ユーザーへの情報開示やプライバシー保護対策の強化が義務付けられた

社会・政治への影響

  • EUでは事件を受けて「GDPR(一般データ保護規則)」が本格施行。個人データ保護への規制が一気に強化
  • 選挙広告の透明性、SNS企業の責任、アルゴリズムによる偏向性などが議論の的に

私たちにとっての教訓

この事件は、以下のような深刻な問いを私たちに突きつけました。

  • SNS利用の裏には、個人データの収集と精緻な分析が存在していること
  • 適切な規制がなければ、民主主義でさえ操作される可能性があるという現実
  • 一人ひとりが、情報の受け手としてのリテラシーと危機意識を持つ必要があること

センセーショナルな見出しが感情を煽る時、それが誰の意図によるものなのか立ち止まって確認することが必要です。


まとめ:事件は終わったか? それとも始まりか?

ケンブリッジ・アナリティカ社は消滅しましたが、類似の手法は今も世界中で使われています

Facebookの仕組みが突かれ民主主義を揺るがしたこの事件は、SNSやAI、広告技術が進化し続ける現代において、「行動データ」がこれまで以上に利用される可能性を示しています。

これは過去の事件にとどまらず、私たちの「いいね!」や閲覧履歴といった行動データが知らぬ間に興味や思考を方向づけるためのツールとして使われている実例です。

自分で選んだ!」と思い込んでいる情報が、誰かに選ばされているとしたら?
個人の自由意志が、気づかぬうちに歪められているかもしれない——これは、SNS時代における本質的な問いなのです。


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