多くの動物は外見が左右対称ですが、内臓は非対称に配置されていることが知られています。
私たち人間の体も、外から見ると両手・両足・両目・両耳など、左右のバランスが取れており、「人間らしい形」として定着しています。
しかし、体の中をのぞいてみると、話は変わってきます。
心臓は左、肝臓は右、胃は左。腸の曲がり方も非対称です。
なぜ、外見は左右対称なのに、内臓は左右非対称なのでしょうか?
そしてさらに、稀に臓器が左右反転する人がいるのはなぜなのでしょうか?
外見が左右対称な理由
運動のバランスがとりやすい
左右対称の体は、前後左右への移動やバランスの維持に適しています。
もし片側にしか手や足がなかったら、真っすぐ歩くことも困難でしょう。
感覚の精度が上がる
両目・両耳が左右にあることで、奥行きや音の方向などを正確に把握できます。
これは生存や捕食、危険回避にとって大きな利点です。
左右対称は「優良」の証とされてきた
左右対称な外見は、発育の安定性を示す指標とされ、多くの動物で「魅力」として評価される傾向があります。進化の中で好まれ、残されてきたと考えられます。
内臓が左右非対称な理由
限られた体内スペースを効率よく使うため
体の中は狭く、すべての臓器を対称に配置するのは現実的ではありません。
たとえば、心臓を真ん中に置くと血管の配管が複雑化してしまいます。
臓器同士が干渉せず、効率よく配置されるように「非対称なレイアウト」が進化的に選ばれてきたのです。
臓器の連携に最適な配置だから
臓器はそれぞれ単独で働いているわけではなく、連携して機能しています。
例として、肺は左右にありますが、右肺は3葉、左肺は2葉と非対称。この非対称は、左にある心臓との位置関係からきています。

同様に、肝臓が右にあることで、右の腎臓は少し下に位置するなど、臓器同士の最適な関係性が形作られています。
発生段階で「非対称」が決まる仕組み
外見は左右対称に見えても、実は発生の早い段階から「左右の差」はつくられています。
ノード流(Node Flow)が鍵を握る
受精後、胚の「ノード」と呼ばれる部分で、微細な繊毛が回転し、左向きに液体の流れをつくります。
この流れによって、「左側」で特定の遺伝子(ノーダルなど)が働き始め、左右の違いが確立されます。
こうした分子レベルの左右差が、やがて心臓や胃、腸などの位置を決めていくのです。
詳しくは参考リンクからどうぞ
稀に臓器が反転するのはなぜ?
こうした仕組みが正常に働かない場合、内臓の左右配置が逆になることがあります。これを「内臓逆位(situs inversus)」と呼びます。
内臓逆位とは?
- 完全内臓逆位(situs inversus totalis):すべての臓器が左右反転。自覚症状がない場合が多く、健康な生活を送れるケースも多数。
- 不完全内臓逆位(situs ambiguus / heterotaxy):一部の臓器のみが反転。心臓の形態異常などを伴うこともあり、医療的なケアが必要になることも。
原因は繊毛運動の異常や遺伝的要因
内臓逆位は、繊毛がうまく動かずにノード流が形成されない、あるいは遺伝子の伝達エラーによって起こると考えられています。
とくに、「カルタゲナー症候群」と呼ばれる疾患では、臓器の反転に加え、呼吸器疾患なども併発することがあります。
医療面での注意点
臓器の位置が通常と異なると、手術や処置の際に見誤る危険があります。
そのため、画像診断などで正確な臓器配置を把握することが非常に重要になります。
まとめ
外見(左右対称) | 内臓(左右非対称) |
---|---|
運動・感覚の効率 | 機能・配置の効率性 |
魅力・健康の指標 | 発生初期に決定される |
進化的に保存されやすい | 変異が起こることもある |
私たちの体は、「外見の対称性」と「内部の非対称性」という矛盾するようで絶妙な構造によって成り立っています。
これは進化が数億年かけて編み出した「最も合理的なバランス」なのかもしれません。
コメント