毎年6月ごろになると、日本列島はジメジメとした「梅雨(つゆ)」の季節に入ります。
でも、なぜこの時期に毎年必ず雨が続くのか、そしてどうして「梅雨前線」が発生するのか、不思議に思ったことはありませんか?
この記事では梅雨の基本、前線の仕組み、世界の雨の季節との違い、過去の災害まで幅広く解説していきます。
梅雨とは?まずは基本的な定義から
梅雨とは、毎年5月下旬〜7月中旬にかけて、日本を含む東アジアの広い範囲で見られる、雨の多い期間のことです。
- 梅雨の期間:およそ1か月半(地域により前後)
- 特徴:長雨、曇天、湿度の上昇など
- 毎年気象庁による「梅雨入り・梅雨明け」の発表あり
由来は?
「梅雨」はもともと中国で生まれた言葉(読み:méiyǔ/メイユー)で、日本には古代に伝わりました。この時期はちょうど梅の実が熟すころとされ、「梅」の字が用いられたとされています。
日本にこの言葉が伝わった当初は、「黴(かび)の雨=黴雨(ばいう)」という字が使われていたという説もあります。「黴」という字が印象が悪く見た目も美しくないため、「梅」の字に置き換えられたともいわれています。
「梅雨」と書いて「つゆ」と読むのは、日本独自の呼び方です。これにも複数の説があります。
読み方の由来①:露(つゆ)から転じた説
雨が降ったあとに残る“露(つゆ)”のような湿気を感じる季節。つまり「露っぽい季節」=「つゆ」となったという説。
読み方の由来②:腐るから転じた説
湿気で食べ物などが腐りやすくなる時期という意味で、「潰ゆ」→「つゆ」と変化したという説。
他の国での呼び名
梅雨は東アジア特有の気象現象で、地域ごとに次のように呼ばれています。
- 日本:梅雨(つゆ)
- 朝鮮半島:장마(チャンマ)- 長く降り続く雨
- 中国南部:梅雨(メイユー)- 梅の熟す頃の雨季
- 台湾:梅雨(メイユー)- 中国と同様に「梅雨」を使用
梅雨前線とは?その正体を解説
梅雨前線とは、日本付近に停滞する「停滞前線」の一種で、梅雨の時期特有の気象現象です。この前線が日本列島付近に長期間とどまることで、連日の雨や曇り空が続く「梅雨」の季節が生まれます。
2つの高気圧が関係している
梅雨前線は、南北2つの異なる性質の高気圧が拮抗することで発生します。
- 太平洋高気圧:南から暖かく湿った空気を日本へ押し上げる(いわゆる“夏の空気”)
- オホーツク海高気圧:北から冷たく湿った空気を流し込む(“初春・晩春の冷たい空気”)
この2つの高気圧の間にできる空気の境目が「梅雨前線」です。ちょうど性質の違う空気がぶつかり合っている状態です。

出典:ウェザーニュース:https://weathernews.jp/s/topics/202007/250115/
なぜ雨が降る?
暖かく軽い空気(南側)は冷たい空気(北側)に押し上げられ、上昇気流を生み出します。上空で冷やされた空気中の水蒸気は凝結し、雲を作り、雨を降らせます。
このプロセスが継続的に起こるため、前線が停滞している間は毎日のように雨が降り続くのです。
なぜ「停滞」する?
梅雨前線がなかなか動かないのは、両側の高気圧の勢力が均衡しているためです。
たとえば、太平洋高気圧の勢力がまだ弱くて日本列島まで広がっていないと、梅雨前線は本州付近に停滞します。そして、太平洋高気圧が強まり、オホーツク海高気圧を押しのけるようになると、前線は北へ押し上げられ、「梅雨明け」となります。
梅雨と雨季の違いは?
梅雨と似たような「雨が続く季節」として「雨季」という気象現象があります。ですが、発生メカニズムには違いがあります。
雨季はインドや東南アジア、アフリカなど熱帯・亜熱帯地域で見られる「モンスーン(季節風)」による降雨です。
- 海からの湿ったモンスーン(季節風)が大陸に流れ込む
- 山などでその空気が強制的に上昇し、雲が発生
- 一気に雨が降る(スコール)
梅雨が「しとしと長雨」なのに対し、雨季はスコールのような「局地的な強い雨」が中心です。
つまり、似ているようで異なる気象現象なのです。
比較項目 | 梅雨(つゆ) | 雨季(うき) |
---|---|---|
主な地域 | 日本・韓国・中国南部など | 東南アジア・アフリカ・中南米など |
原因 | 梅雨前線(冷たい空気と暖かい空気の境界) | モンスーン(季節風)による湿気の流入 |
時期 | 5月下旬~7月中旬(地域によって異なる) | 地域により異なる(例:タイは5〜10月) |
雨の降り方 | しとしと続く長雨が中心 | 一時的に激しく降る雨が多い |
継続期間 | 約1〜1.5か月 | 数か月におよぶ長期的な雨の季節 |
特徴 | ジメジメ・曇り空が多い・気温上昇 | 高温多湿・蒸し暑い・雨と晴れの切り替えが激しい |
地域ごとに違う梅雨の様子
日本列島は南北に長いため、梅雨の始まりと終わりには地域差があります。
地域 | 梅雨入り | 梅雨明け | 備考 |
---|---|---|---|
沖縄 | 5月上旬 | 6月下旬 | 梅雨入りが最も早い |
九州〜近畿 | 5月下旬〜6月上旬 | 7月中旬 | 豪雨リスクが高い |
関東〜東北 | 6月上旬〜中旬 | 7月下旬 | 曇りや小雨が多い傾向 |
北海道 | 概ね梅雨なし | ー | 前線がかかりにくい |
「空梅雨」や「戻り梅雨」とは?
梅雨の特徴を表す言葉に以下のようなものもあります。
- 空梅雨:降水量が少ない年のこと
- 戻り梅雨(返り梅雨):梅雨明け後に一時的に天気が崩れる現象
これらはその時の気圧配置や海水温の変化、エルニーニョ・ラニーニャ現象などに影響されます。
エルニーニョ現象(El Niño)
- 太平洋の赤道付近(ペルー沖)の海水温が平年より高くなる現象
- 日本では…
→ 冷夏・暖冬になりやすく、梅雨が長引く・雨が多い傾向も - 世界では…
→ 南米で豪雨、インドや東南アジアで干ばつなど、影響は広範囲
ラニーニャ現象(La Niña)
- 太平洋赤道域の海水温が平年より低くなる現象
- 日本では…
→ 暑い夏・寒い冬になりやすく、梅雨が短くても集中豪雨が起きやすい - 世界では…
→ アメリカやアフリカで干ばつ、アジアで洪水などが発生しやすい
近年の梅雨時に発生した主な災害
梅雨の時期は、土砂災害・洪水・河川の氾濫など、自然災害のリスクも高まります。
- 地盤が緩み、がけ崩れ等のリスク上昇
- 急な雷雨(ゲリラ豪雨)
- 河川の氾濫、ダムの緊急放流
短時間でも命を脅かすほどの大雨になることもあります。
この季節は、国や自治体が発表する気象警報にも注意を払いましょう。
1. 平成30年(2018年)7月豪雨(西日本豪雨)
発生期間:2018年6月28日~7月8日
概要:台風7号や梅雨前線の影響で西日本を中心に記録的な大雨。
- 死者・行方不明者:計232名(死者224名、行方不明8名)
- 住宅被害:全壊6,758棟、半壊10,878棟、床上浸水8,567棟など
- 主な被災地:広島・岡山・愛媛県などで土砂災害や河川氾濫が頻発
2. 令和2年(2020年)7月豪雨
発生期間:2020年7月3日~7月31日
概要:停滞した梅雨前線により、西日本から東北まで広範囲で記録的豪雨。
- 大雨特別警報発表県:熊本、鹿児島、福岡、佐賀、長崎、岐阜、長野の7県
- 被害:河川氾濫・土砂災害・浸水害が相次ぎ、多数の住家被害および人的被害を記録
3. 令和5年(2023年)梅雨前線および台風第2号による大雨
発生期間:2023年6月2日~6月3日(台風第2号も接近)
概要:梅雨前線と台風の重なりにより、西日本~東日本太平洋側で集中豪雨。
- 人的被害:死者1名、行方不明2名、負傷者46名
- 住宅被害:全壊11棟、半壊6棟、一部破損37棟、床上浸水1,992棟、床下浸水5,741棟
- 被害地域:1都1府17県に広がり、茨城・東京・愛知など各地で土砂災害や河川氾濫が発生
4. 令和5年(2023年)梅雨後期の大雨(6月28日~7月16日)
発生期間:2023年6月28日~7月16日
概要:上空寒気の影響も加わり、九州北部から北海道にかけて記録的な大雨。
- 総降水量:大分・佐賀・福岡で1,200mm超、北~西日本各地で7月平年雨量の2倍以上
- 被害:線状降水帯による突風被害や洪水が各地で発生
- 気象庁の対応:福岡・大分に大雨特別警報を発表
5. 令和6年(2024年)梅雨前線と低気圧による大雨(7月23日~7月26日)
発生期間:2024年7月23日~7月26日
概要:北日本を中心に発生し、山形県で大雨特別警報が同日に2度発表された記録的な大雨。
- 人的被害:死者2名、行方不明2名、負傷者3名
- 住家被害:全壊9棟、半壊2棟、床上浸水427棟、床下浸水935棟、一部損壊6棟
- 河川の氾濫:秋田県由利本荘市を流れる子吉川の11か所で氾濫、うち堤防1か所が決壊
梅雨を快適に乗り切るためのポイント
部屋の湿気対策
- 除湿機やサーキュレーターの活用
- 結露対策や押し入れのこまめな換気
- 炭や珪藻土など、吸湿機能のある自然素材の除湿材もおすすめ
食品・健康管理
- カビや食中毒を防ぐための保存方法の見直し
- 湿度による不快感を抑える、通気性の良い服装
- ストレス解消の工夫(アロマ、読書、梅雨の風情を楽しむなど)
まとめ:梅雨を知って、安全・快適に過ごそう
梅雨は毎年必ずやってくる自然現象ですが、その正体や特徴を知っておくことで、適切な備えや心構えができます。
- 天気予報をこまめにチェック
- 排水溝や雨どいの掃除で水害予防
- 非常用持ち出し袋の再確認
- 室内干し用アイテムや除湿器の活用
「梅雨」は、ただの不快な季節ではなく、作物や森林にとって必要不可欠な恵みの雨でもあります。田んぼには水が満たされ、山の保水力を高め、日本の自然環境を維持するうえで欠かせない季節です。
ジメジメとした季節を少しでも快適に、そして安全に乗り切るために、ぜひこの記事の内容を役立ててください。
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