日本には、千年以上にわたって受け継がれてきた旅館が今なお現役で営業を続けています。
これらの宿は、単なる宿泊施設ではなく、長い年月を超えて伝統と文化を守り続ける「生きた文化遺産」と言えるでしょう。
今回は、世界的にも稀な歴史を誇る3軒の宿泊施設をご紹介します。
慶雲館(山梨県・西山温泉)
創業:西暦705年(慶雲2年)|ギネス世界記録認定の最古の宿

慶雲館は赤石山脈(南アルプス)の麓、山梨県早川町に位置する温泉宿で、「世界最古のホテル」としてギネス世界記録に認定されています。創業はなんと西暦705年、奈良時代に遡ります。
藤原氏の始祖・藤原鎌足の長男、藤原真人が狩猟を行った際に川の岩の間より盛んに噴き出している温泉を発見したといわれています。慶雲年間に湯壺が造られたことから「慶雲館」と命名されました。
以来、1300年以上にわたり営業を続け、代々家族経営でその伝統を守ってきました。
しかし、跡継ぎの不在により、現在の53代目当主は創業家以外の人物が初めて継承することになりました。
泉質の良さと美しい自然、そして変わらぬもてなしの心が、多くの旅人を魅了してきました。歴史好きや温泉ファンには、一度は訪れてほしい名宿です。
特徴
- 源泉かけ流しの温泉(加水・加温なし)
- 武田信玄の隠し湯としても知られる
- 最古の宿泊施設としてギネス認定(2011年)
千年の湯 古まん(兵庫県・城崎温泉)
創業:西暦717年(養老元年)|城崎温泉の老舗旅館

兵庫県の城崎温泉にある「古まん」は、717年に開業した老舗旅館です。創業者は道智上人とされ、以来、城崎温泉の発展と共に歩んできました。
717年、高僧・道智上人がこの地で千日修行を行い、その際に湧き出した霊泉が「曼陀羅湯」と呼ばれ城崎温泉の始まりとされました。
道智上人が修行を行った屋敷は「曼陀羅屋敷」と呼ばれ、後に「古曼陀羅屋」へと変わり、さらに現在の「古まん」へとつながっています。
古まんの魅力は、落ち着いた和の空間と、旅人を温かく迎える心のこもった接客にあります。
夕食には但馬牛や松葉ガニなど、地元の食材を活かした懐石料理が提供され、訪れる人々の舌と心を満たします。
特徴
- 外湯巡りの拠点に最適な立地
- 城崎の町並みに溶け込む歴史的建築
- 地元の旬を楽しむ会席料理
法師(石川県・粟津温泉)
創業:西暦718年(養老2年)|46代続く老舗|かつては世界最古の宿とされた

石川県の粟津温泉にある「法師」は、718年に泰澄大師(たいちょうだいし)が開いたとされる温泉宿で、かつてはギネスブックに「世界最古のホテル」として登録されていました。
泰澄大師が白山での修行中、夢枕に現れた白山大権現の啓示により粟津(あわづ)に向かい、地中に隠れた温泉を掘り当てました。この湯は病を癒す霊泉として知られるようになります。
弟子の雅亮法師(がりょうほうし)が湯治宿を建て、二代目はその養子・善五郎が継承。以降、当主は「法師善五郎」の名を代々受け継いできました。
1300年以上の歴史を持つこの宿は、46代にわたる家族経営で営まれています。静寂に包まれた日本庭園と、数寄屋造りの趣ある建築が、訪れる人を非日常へと誘います。
特徴
- 数寄屋造りの客室と回遊式庭園
- 北陸の旬を味わえる会席料理
- 加賀百万石文化を感じるもてなし
まとめ
これらの宿は、単に「古い施設」ではなく、時代に合わせて建物をアップデートし、数々の困難を乗り越えてなお、伝統を守り続けてきた日本文化の象徴です。
もしあなたが訪れたなら、その夜も次の千年の一頁となるかもしれません。
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