2025年6月13日、イランがイスラエルに対し大規模な報復ミサイル攻撃を実施しました。
この衝突は単なる二国間の対立ではなく、中東を舞台に繰り広げられる「多層的な代理戦争」とも言える複雑な構造が背景にあります。
中東は常にどこかで衝突が起きており、「なぜ今こうなっているのか分からない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、主要な当事者であるイラン・イスラエル、そして第三勢力(ハマス、アメリカ、ヒズボラ、フーシ派など)という三つの軸から、年表形式で経緯を整理し、現在の情勢を分かりやすくまとめました。
年表:イラン・イスラエル・第三勢力の三軸で見る対立の深化
年月 | イランの動き | イスラエルの動き | 第三勢力(ハマス・アメリカ・ヒズボラ・その他) |
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2006年 | ハマス・ヒズボラへの支援を強化 | ― | ハマスがパレスチナ選挙で勝利(翌年ガザ掌握) |
2014年 | ― | ガザ地区に大規模空爆(50日戦争) | ハマスがロケット弾で応戦、市民死傷者多数 |
2021年 | ハマス・ヒズボラへ武器供与 | アル=アクサ巡礼者への締め付け強化 | ハマスが報復名目でガザからロケット弾発射 |
2023年10月 (転換点①) | ― | ハマス襲撃により軍・民間人死傷 | ハマス「アル=アクサの洪水」作戦、ヒズボラが北部攻撃開始 |
2024年4月1日 (転換点②) | ― | シリアのイラン領事館を空爆、IRGC幹部殺害 | 国際社会が懸念表明、米国は沈黙 |
2024年4月13日 (転換点③) | 報復でミサイル・ドローン320発発射 | 多国籍協力で90%以上迎撃 | 米・英・仏がイスラエルの防空支援、ヒズボラが報復示唆 |
2024年10月上旬 | 「True Promise II」作戦(再報復) | 被害軽微と発表 | フーシ派が紅海封鎖開始、米艦攻撃も発生 |
2024年10月26日 | ― | 「悔恨の日々作戦」でイランの核施設などを空爆 | ロシアが非難声明、中国が停戦呼びかけ |
2025年6月13日朝 (転換点④) | 核施設・指導者を攻撃され多数死傷 | イランへの越境攻撃を実施 | 米がイスラエルに情報支援、ヒズボラが警戒強化 |
2025年6月13日夜 | 270発の報復ミサイル発射 | 一部迎撃、都市部に被害 | 国連が即時停戦呼びかけ、米は「自衛支持」 |
2025年6月14日~ | イラン拠点に再空爆を受け死傷多数 | 空爆継続 | ヒズボラが警戒姿勢、フーシ派も攻撃継続の構え |
背景
1979年のイラン革命により、それまで親米・親イスラエルだったパフラヴィー王政が倒され、反米・反イスラエルを掲げるイラン・イスラム共和国が誕生しました。これを主導したホメイニ師は、イスラエルを「イスラム世界の敵」「シオニスト政権」と位置づけ、革命直後に国交を断絶。以後、イランの対外政策においてイスラエルの排除が明確な方針となりました。
イランとイスラエルは直接的な軍事衝突を避け、他国や非国家組織を通じて間接的に争っていました。
代理勢力と戦場の構図
イラン側 | イスラエル側 | 闘争の場 |
---|---|---|
ヒズボラ(レバノン) | IDF(イスラエル国防軍) | レバノン南部・シリア |
ハマス(ガザ) | イスラエル空軍・諜報機関 | ガザ地区・東エルサレム |
フーシ派(イエメン) | サウジ・米海軍との連携 | 紅海・アデン湾 |
イラクの親イラン民兵 | モサド(イスラエル諜報) | シリア・イラク国境 |
目的は、互いの本土を戦場にしない「代理戦争」で敵を弱らせることでした。
「第三勢力」それぞれの思惑と行動
勢力 | 主な関与内容 |
---|---|
アメリカ | イスラエルを全面支援(防空・情報・外交)。同時にイランとの直接戦争を回避させようと圧力も。 |
ヒズボラ | 北部国境から攻撃。イランが攻撃されるたびに報復姿勢を強める。 |
ハマス | ガザからの攻撃を継続。2023年の戦闘では衝突の火種となり、イスラエルの強硬対応を誘発。イランと関係が深く、代理勢力として機能。 |
フーシ派 | 紅海でイスラエルや欧米の船舶を攻撃。イランと連携し地域不安定化を図る。 |
シリア | イランの軍拠点を提供。イスラエルにとって主要な空爆対象。 |
ロシア | イランとの連携強化、イスラエルを非難。中東での西側の影響力排除が目的。 |
中国 | 停戦調停を主張。2023年のイラン・サウジ和解で存在感を示したが、現状は中立維持。 |
【転換点①】2023年10月「アル=アクサの洪水」作戦と中東秩序の崩壊
2023年10月7日、パレスチナのハマスがイスラエルに対し越境攻撃を実施。市民を無差別に殺害・拉致し、死者1,200人以上、約250人が人質となる過去最大級の襲撃となりました。
▶ ハマスの主張
- アル=アクサ・モスクへの侵害に対する報復
- ガザ封鎖と人道危機への抵抗
- サウジアラビアとイスラエルの国交正常化阻止
▶ イスラエルの主張
- 民間人を標的にした「テロ行為」
- ハマスの殲滅は自衛権の行使であり正当
この事件を皮切りに、ガザ侵攻が始まり、数万人規模の死傷者が出る大規模紛争へと発展しました。
【転換点②、③】イランとイスラエルの「直接衝突」へ
2024年4月、イスラエルがシリア・ダマスカスのイラン領事館に対する直接攻撃(国際法上は“領土侵犯”に相当)を実行し、イラン革命防衛隊(IRGC)の幹部を殺害。これに対しイランは軍事報復を決定。これがイランの史上初の「国家としての直接報復」となります。
- イランの攻撃(4月・10月):巡航ミサイル、ドローンによる大規模攻撃
- イスラエルの反応:「報復には報復」でイラン本土を空爆
この時点で、代理戦争から直接対決に構造が変化し、イスラエルの軍事力とイランの地域ネットワークが激突する局面になりました。
【転換点④】2025年6月13日:国家間の一線を越えた“報復の連鎖”
前段:緊張の蓄積と即応態勢
2024年4月のイスラエルによるイラン領事館爆撃(シリア・ダマスカス)を発端に、両国の関係は一気に悪化。イランは同年4月に初めて自国領から直接イスラエルへ報復攻撃を仕掛けるという“国家主導の直接対決”に踏み切りました。
その後も数カ月にわたり、イランはヒズボラやフーシ派などを通じた間接的圧力と、限定的なドローン攻撃などを続けていました。
一方のイスラエルは、イランの核開発が臨界点に達する兆候を警戒し、情勢を注視しつつも攻撃の機会を探っていました。
発端:イスラエルによるイラン本土への空爆
2025年6月13日、イスラエルはついにイラン本土の軍事・核関連施設への大規模な空爆を実行。標的は以下の通りと報じられている
- ナタンズ近郊の核関連施設
- イスファハーン州の弾道ミサイル拠点
- 革命防衛隊(IRGC)の司令部や通信インフラ
この攻撃は、イスラエルにとって“先制防衛”という意味合いが強いのですが、イラン側には「国家主権への明確な侵害」として受け取られました。
報復:イランの本格的ミサイル攻撃
これに対し、イランは即座にミサイル270発をイスラエルに向けて報復発射。そのうち多数が迎撃されましたが、一部はイスラエル南部や軍施設に着弾し、死傷者も報告されています。
さらに、イスラエルによる再報復として、テヘラン近郊の防衛施設や軍需工場が標的となり、民間にも被害が及んだとの報道もあります。
状況の変化
この一連の応酬により、以下のような決定的な構造変化が生じました。
- “代理戦争”の段階が完全に終了し、国家同士の直接的な軍事衝突が常態化
- 米・欧・中東諸国による外交的な抑止の枠組みが完全に無力化
- 中東地域全体が多方面同時紛争(ハマス・ヒズボラ・フーシ派連動)のリスク下に突入
もはやこの戦いは「ガザ戦争」や「ヒズボラの国境衝突」といった地域的な衝突ではなく、中東全域に波及しかねない“多正面戦争”が危惧されています。
今回の双方の主張と正当化
陣営 | 主張内容 |
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イスラエル | 核兵器開発の阻止する名目で「先制的自衛権」行使。ハマス・ヒズボラの脅威を封じる必要がある。 |
イラン | 「国家主権への侵害への報復」。報復の権利は国連憲章に基づく自衛行為。停戦の意思も示唆。 |
国際社会の反応
- 国連:民間人被害と地域紛争拡大に強い懸念。即時停戦を求める。
- 米・英・仏:イスラエル支持。ただし全面戦争は望まず。
- 中露:イスラエルを非難、停戦と外交対話を要求。
まとめ:なぜ対立は止まらないのか?
- 歴史的宗教対立と民族問題
- 代理戦争から直接衝突への転換
- 核開発と地域覇権をめぐる根源的な不信
- ハマス・ヒズボラ・フーシ派による「非国家アクター」の影響力
- 第三勢力の動向次第で更なるエスカレートの可能性
今後の展開と懸念
- 国連など国際機関の仲介は機能するのか?
- 米国はどこまでイスラエルを支持し続けるのか?
- フーシ派・ヒズボラが全面介入した場合のリスクは?
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